介護

新人が続かない職場は研修を増やしても定着にはつながらない

塩谷直人

新人が入ってはすぐに辞めていく。そのたびに研修を見直し、マニュアルを細かくし、教育担当をつける。それでも定着率が変わらない事業所は少なくないはずです。

私自身、管理者になる前も後も同じことをやっていました。結論から言えば、あまり効果はありませんでした。

この記事では、教育の量を増やしても定着につながらなかった理由と、代わりに何を変えたのかを書いています。あわせて、辞める職員に共通して出ていた変化についても整理しました。

教育を増やしても定着率が変わらなかった理由

人手が足りない時期ほど、新人には早く戦力になってほしくなります。当時の私も同じでした。研修の回数を増やし、業務マニュアルを細かくし、先輩が横について教える時間を確保する。やれることはやったつもりでした。

それでも定着率はほとんど動きませんでした。

原因を取り違えていたのだと思います。新人が負担に感じていたのは、仕事の内容そのものではありませんでした。

教えれば覚えられる仕事ばかりではない

介護は、同じ利用者さんでも日によって状態が変わります。昨日と同じ手順で通用しないことのほうが多い。

つまり、事前に全部を教えることが構造的に不可能な仕事です。ここを踏まえずに研修の量を増やしても、現場で起きることの大半は研修の外側にあります。

マニュアルを厚くするほど、新人は「この場面はどこに書いてあるのか」と探すことになる。かえって動きづらくなっていた面もあったと思います。

新人が負担に感じていたのは別のところだった

あとから振り返ると、新人が辛かったのは次のような部分でした。

  • 分からないことを聞きづらい
  • 先輩が忙しそうで声をかけるタイミングがない
  • マニュアル通りにいかない場面で、どう判断していいか分からない

いずれも技術の問題ではありません。聞ける状態にあるかどうかの問題です。

教える時間を増やしても、聞きづらさが残っていれば新人は困ったまま現場に立つことになります。負担の中身が変わっていなかったわけです。

質問できる環境をつくるために変えた2つのこと

原因の見方を変えてから、手をつける場所も変わりました。新人本人だけを見るのをやめて、環境のほうを動かすようにしています。

教える側にも声をかける

以前は新人にばかり目が向いていました。今は教える側の職員にも定期的に声をかけます。

「ちゃんと教えてあげて」とは言いません。それだと指示になってしまい、教える側の負担が増えるだけです。かわりに「今どこまでできてる?」「困ってそうなところある?」と、状況を確認する形にしています。

教える側が余裕をなくしていれば、新人は必ず聞きづらくなります。新人の定着は、新人だけを見ていても動きません。

聞き方を具体的にする

新人に「大丈夫?」と聞いても、返ってくるのはほぼ「大丈夫です」です。これは何も分からないのと同じでした。

今は聞き方を変えています。

  • 今いちばんやりづらい仕事は何か
  • 誰に聞けばいいか迷うことはあるか

具体的に尋ねると、具体的な答えが返ってきます。「入浴介助の順番が人によって違うので迷う」といった話は、こう聞かないと出てきません。

抽象的な問いかけは、相手に「特にありません」と答えさせてしまいます。答えやすい形で聞くこと自体が、環境づくりの一部だと考えています。

辞める前に出ていた4つの変化

定着の話とあわせて、辞める職員に出ていた変化についても書いておきます。全員に当てはまるわけではありませんが、共通点はありました。

急に仕事ができなくなるわけではありません。少しずつ職場との距離ができていくという表れ方をします。

雑談が減る

それまで休憩中に普通に話していた職員が、一人でいるようになる。自分から話しかけることが減る。

業務に支障は出ていないので見過ごしやすいのですが、いちばん早く出る変化だと感じています。

報告が必要最低限になる

以前なら「今日◯◯さん、ちょっと様子が違いましたよ」とプラスアルファで伝えてくれていた職員が、「特に問題ないです」だけになる。

報告の量ではなく、報告に付いてくる余分な情報が消えるかどうかを見ています。

勤務変更を避けるようになる

希望休が増えるというより、勤務の変更を嫌がるようになります。

以前は「この日なら代われますよ」と言ってくれていた人が、そういう提案をしなくなる。断ること自体は当然の権利なので問題ではありません。その人の普段の様子と比べて変化があるかを見ています。

不満を言わなくなる

これがいちばん気にしている変化です。

不満が出ているうちは、まだ改善してほしい気持ちがあります。本当に辞める気持ちが固まると、逆に何も言わなくなる職員がいます。

「何でもいいです」「別に大丈夫です」が増えたときのほうが、不満を口にしている職員より心配になることがあります。

まとめ

新人の定着を教育の問題として扱っている限り、打ち手は研修とマニュアルに集中します。ただ、そこを厚くしても結果が変わらないなら、原因は別のところにあるはずです。

私の経験では、次の2点が効きました。

  • 新人本人だけでなく、教える側の余裕も一緒に見る
  • 「大丈夫?」ではなく、具体的に答えられる形で聞く

そして辞める兆候は、多くの場合、業務の質より先に雑談や報告のあり方に出ます。不満を言わなくなった職員こそ注意する。 これは今でも意識していることです。

執筆者

塩谷直人

介護福祉士/介護歴13年・事業所管理者

介護業界で通算13年。実務を続けながら独学で介護福祉士を取得し、現在は事業所の管理者兼サービス提供責任者として運営全体を統括している。現場と管理の両方を経験しており、数字に表れない職場の状態を見ることを重視している。

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