看護

産後すぐに赤ちゃんと離れてしまったお母さんへ〜NICUナースが伝えたいこと〜

太田優奈

出産という人生最大の奇跡を終えた後、胸に抱く間もなくNICUに赤ちゃんが運ばれてしまったという経験のある方は少なからずいると思います。
「普通に産んであげられなくて、ごめんね」と 医療機器に囲まれた小さな我が子を前に、激しい不安と、心配で胸を締めつけられる思いを抱くお母さんは少なくありません。
周りの出産報告を見ては落ち込み、他の病室から聞こえる元気な赤ちゃんの泣き声に、ひとり涙を流しているお母さんは本当にたくさんおられます。
しかし、NICUはお母さんと赤ちゃんを引き離す場所ではありません。医療的なケアと同じくらい、離れて過ごす親子の「心の絆」を優しくつなぎとめることも、看護師の大切な役割です。
いま寂しさと不安で心が折れそうになっているお母さんへ、一人で不安や罪悪感を抱えこまないでください。
本記事では12年間NICUの看護師として勤務している筆者が、NICUに入院する赤ちゃんのお母さんへ「4つのメッセージ」を届けています。
この記事を読むことで、お母さんの心にある不安や「申し訳ない」という罪悪感が、少しでも楽になるよう願っています。お母さんの思いは、もう十分赤ちゃんに届いているのです。

愛着形成とは?お母さんなら知っておきたい親子の心の土台

愛着形成とは、不安な時に身近な大人が寄り添うことや、安心感をもたらす経験の繰り返しによって安心の土台を獲得することです。
引用文献:こども家庭庁 幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なヴィジョン

生まれたばかりの赤ちゃんは自分で不安や不快を解消することができないため、泣いて気持ちを伝えます。
そのサインにお母さんやお父さんが抱っこをしたり、声をかけたり、傍で安心させる経験を繰り返すことで「自分は大切にされている」という気持ちが芽生えていきます。
そのため、愛着形成は出産直後に抱っこや授乳ができたかどうかで決まるものではありません。
NICUに入院すると治療のために母児分離状態となる上に、多くの医療機器に囲まれている中で、「何もしてあげられない」と不安になるお母さんも少なくないでしょう。
しかし、話しかけたり優しく触れたり日々の関わりを積み重ねることで、親子の絆は少しずつ育まれていくものなのです。
NICUで離れて過ごす時間があったとしても、親子の絆はこれから十分に育てていくことができます。「産まれてすぐに抱っこしてあげられなかった」と自分を責めるのは良くありません。
お母さんが赤ちゃんを思い、会いに来て声をかけてくれる時間は、親子の愛着形成にとってかけがえのない時間なのです。

愛着形成が必要な理由とは?

愛着形成は親子の絆を深めるだけでなく、赤ちゃんの心の発達やお母さん自身にも、母親としての自信や赤ちゃんとの繋がりを実感できるなど良い影響をもたらします。
赤ちゃんは養育者との関わりを通して、「困った時には助けてもらえる」「自分は大切にされている」と感じられるようになります。この安心感は、将来様々なことに挑戦するための心の土台となる大切なものです。
ここでは、愛着形成が赤ちゃんとお母さんにそれぞれどのような影響をもたらすか説明します。

 愛着形成が赤ちゃんの心や発達にもたらすもの

愛着形成によって赤ちゃんの心には安心感が生まれます。
その安心感は成長とともに自己肯定感や他者への信頼感、感情をコントロールする力などの土台を築く上で必要なものです。
ここでは、愛着形成が赤ちゃんの心や発達にもたらす影響を3つ説明します。
  安心感・情緒の安定
不安な時に身近な大人が寄り添い、安心感を得る経験を繰り返すことで、赤ちゃんは心の中に安心という土台を築くことができます。
この安心感は、不安やストレスを感じた時の心の支えとなり、少しずつ感情を落ち着かせる力を育んでいきます。養育者との安定した関わりは、情緒の安定に繋がる大切な要素です。
  自己肯定感
赤ちゃんは自分の気持ちに応えてもらう経験を重ねることで、「自分は大切にされている存在だ」という感覚を覚えていきます。
この積み重ねが、将来の自己肯定感の土台になります。自己肯定感が育つことで、新しいことに挑戦したり、失敗しても前向きに取り組んだりする力に繋がることでしょう。
  人間関係の構築
愛着形成は将来的に人との関わり方に影響します。
養育者との信頼関係を通して「人は信頼できる存在」という感覚を身につけ、成長してからも家族以外の周囲の人とも安心して関係を築きやすくなるでしょう。また、自分の思いや願いを尊重された経験を通して、相手を思いやる気持ちも育まれます。
しかし、人間関係は養育者との関わりのみで決まるものではありません。
成長していく過程で、多くの経験を積み重ねながら育まれるものです。
赤ちゃんの頃の愛着形成は、その第一歩となる大切な基盤であると言えるでしょう。

参考文献:こども家庭庁 幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なヴィジョン

 愛着形成がお母さんにもたらすもの

赤ちゃんと触れ合い、授乳や抱っこなどのお世話を重ねる中で「母親になった」という実感が少しずつ育まれ、自信に繋がっていきます。
一方で、NICUに入院し赤ちゃんと離れて過ごす時間があると、「本当なら一緒に過ごしていたはずなのに」と不安や罪悪感を抱くお母さんも少なくありません。
不安や罪悪感は母児分離を経験したお母さんの反応として決して特別なことではなく、多くの方が経験するものでしょう。
ここでは、愛着形成が母にもたらす影響を3つ説明します。 

  母親としての自信に繋がる
赤ちゃんのお世話や抱っこ、声かけなどを繰り返すことで「赤ちゃんが安心してくれた」「自分にもできた」という経験が重なり、母親としての自信が育まれていきます。
NICUでは、赤ちゃんの状態に合わせておむつ交換や授乳などの育児参加を促します。
しかし、未熟児を持つお母さんは小さな我が子を目の当たりにし、「小さいから怖い」という不安を感じる方も少なくありません。
そのため無理に育児参加を勧めるのではなく、まずは赤ちゃんに優しく手を添えるタッチングや声かけを促し、お母さんが安心してできる関わりから行う必要があります。
お母さんの気持ちに合わせて、ホールディングやおむつ交換など段階を経て少しずつ関わりを広げていくことで達成感を感じることができ、母親としての自信に繋がることでしょう。  

  罪悪感を抱えてしまうこともある
NICUに赤ちゃんが入院すると「自分のせいで赤ちゃんが入院してしまった」「何もしてあげられない」と自責の念を抱えるお母さんも少なくありません。
しかし、罪悪感を抱くのは赤ちゃんを大切に思い、我が子に何かしてあげたいという気持ちがあるからこそなのです。
面会に来て話しかけることや優しく触れることも、赤ちゃんにとっては安心できる大切な愛情表現です。
一人で罪悪感を抱え込むのではなく、医療スタッフに気持ちを共有することで、お母さんの心の負担を軽減し安心して赤ちゃんと向き合える時間を支援していくことが可能となります。

NICUに入院した赤ちゃんのお母さんが抱えやすい気持ち

赤ちゃんがNICUへ入院すると、多くのお母さんは喜びよりも不安や戸惑いの中で産後を過ごすことになります。
「赤ちゃんが無事に育ってくれるだろうか」という心配だけでなく、「母親として何もできていない」「自分のせいで早く産まれてしまったのではないか」と自分を責めたり、孤独を感じたりすることも少なくありません。
こうした気持ちは決して珍しいものではなく、多くのお母さんが経験する自然な反応です。
だからこそ、お母さんを励まそうとするあまり気持ちを否定するのではなく、その思いに寄り添い安心して気持ちを話せる環境をつくることが大切です。
ここでは、NICUに入院した赤ちゃんのお母さんが抱きやすい気持ちを3つ説明します。

 「私のせいかもしれない」と自分を責めてしまう

「もっとお腹の中で育ててあげたかった」「私のせいで赤ちゃんに苦しい思いをさせてしまった」と自分を責めてしまうお母さんは少なくないでしょう。
特に赤ちゃんが早産や低出生体重で生まれたり、将来的に発達への影響が心配されたりする場合には「私がもっと頑張れていたら…」という思いが強くなり、自責の念に駆られてしまうこともあります。
しかし、赤ちゃんがNICUで治療を受けることになった原因は、お母さんの努力や愛情不足によるものではありません。
なぜなら、出産はお母さんの力だけではどうすることもできないことがたくさんあるからです。
早産・低出生体重児や生まれつきの病気などNICUに入院する理由は赤ちゃんによって異なります。その多くはどれだけお母さんが赤ちゃんを大切に思い気をつけて過ごしていても、防ぐことが難しいものです。
悔やんだり悲しんだりしてしまうのは、それだけ赤ちゃんを大切に思っているからこその自然な感情です。
そのため、お母さんは自分を責めないでください。NICUは「お母さんが原因だから入る場所」ではなく、「赤ちゃんが外の世界で生きていくための一歩を踏み出す場所」なのです。

 抱っこも授乳もできず母親としての実感が持てない

出産後は赤ちゃんを抱っこしたり、授乳をしたりしながら少しずつ「母親になった」という実感が育まれていきます。
しかし、NICUでは治療や全身管理が優先されるため、すぐに抱っこや授乳ができないことも度々あります。
そのため、「お母さんになった実感がない」「何もしてあげられていない」と戸惑いを感じる方も少なくありません。
母親としての実感は、出産直後の関わりだけで生まれるものではないのです。
面会で話しかけたり、手を添えて優しく触れたりする時間も、親子にとって大切な関わりです。おむつ交換や授乳などのお世話に少しずつ参加することで、親子の絆が育まれ、母親としての実感も生まれることでしょう。

 周囲には理解されにくい葛藤を抱えてしまう

赤ちゃんがNICUに入院すると、本来であれば出産の喜びを感じる時期であっても、それ以上に「赤ちゃんは大丈夫だろうか」という心配や不安が大きくなります。
また多くのお母さんが経験する母児同室ができなかったり、自分だけ先に退院したりすることで、「赤ちゃんを病院に残して帰らなければならない」という辛い現実に直面します。
退院の日を素直に喜べず、後ろ髪を引かれる思いで病院を後にするお母さんも少なくありません。
さらに周囲からは「赤ちゃんは元気?」「もう退院した?」と聞かれたり、最近ではSNSで母子同室や育児の様子を目にしたりすることで、辛い気持ちになることもあるでしょう。
赤ちゃんと離れて過ごす寂しさや、毎日面会に通う大変さ、先の見えない不安は実際に経験した人でなければ理解しにくいものです。
しかし、このような気持ちを一人で抱え込む必要はありません。
NICUでは赤ちゃんの治療だけでなく、お母さんや家族の心のケアも大切な支援の一つなのです。
面会中にふと涙がこぼれそうになったり、胸が苦しくなったりしたときは、近くにいる看護師にいつでも声をかけてください。私たちはいつでもお母さんの味方です。

NICUの看護師がお母さんへ伝えたい4つのメッセージ

NICUに入院し多くの医療機器に囲まれた我が子を前に、「離ればなれで寂しい」「大変な思いをさせてしまっている」と、一人で不安や罪悪感を抱えている方も少なくないでしょう。
NICUは、お母さんと赤ちゃんを引き離す場所ではありません。医療的なケアと同じくらい、離れて過ごす親子の「心の絆」を繋ぐことも、看護師の大切な役割です。
ここでは、NICUに入院する赤ちゃんを持つお母さんへ、4つのメッセージをお伝えします。

 泣いても、弱音を吐いても大丈夫です

我が子がNICUに入院すると、頭の中が不安や戸惑いでいっぱいになったり、「私のせいでNICUに入ることになってしまったのではないか」と自分を責めたりする方は多いことでしょう。
「赤ちゃんも頑張っているから私も頑張らないといけない」と、一人で気持ちを抱え込んでしまうお母さんも少なくありません。
しかし、無理に前を向こうとしたり、頑張ろうとしたりしなくても大丈夫なのです。張り詰めた心のままでは、余計に苦しくなってしまうことでしょう。
看護師が大切にしたいのは、お母さんが心の中で抱えている不安や、言葉にできない葛藤をそのまま受け止めることです。
そのため、不安や葛藤を一人で抱え込まないでください。まずはその気持ちを看護師に預けて、少しずつ安心して赤ちゃんと向き合える心のゆとりを一緒に作っていきましょう。

 お母さんが当たり前にしていることが赤ちゃんの力になります

多くの医療機器に囲まれて眠る赤ちゃんを前に、「私は何もしてあげられない…」と無力感に襲われてしまうこともあるのではないでしょうか。
しかし、決してそんなことはありません。お母さんが毎日面会に足を運んだり、優しく声をかけたりすることがお母さんだからこそできる最高のプレゼントなのです。
看護師は、お母さんが「当たり前」だと思っている大切な頑張りを、しっかりと見ています。
「お母さんの声が聞こえて動いていますね」「お母さんが触ってくれると表情が穏やかになりましたね」と、看護師ができていることを具体的な言葉にして伝えるのには、理由があります。
それは、お母さんの温かい関わりの積み重ねが、赤ちゃんにとって何よりの生きる力になっているからです。
「私にもこの子のためにできていることがあるんだ」と、お母さんが少しずつ実感することで「母親としての自信」を育てていけることでしょう。

 赤ちゃんの成長を一緒に見守っていきましょう

産後すぐのお母さんの体は、思っている以上にダメージを受けています。
そのため、長時間の面会が難しかったり、赤ちゃんと一緒に過ごせる時間が限られたりすることもあります。その際、どうか自分を責めないでください。
お母さんが傍にいられない時間も、看護師は赤ちゃんの様子を一番近くで見守り、面会の時には日々の様子をお伝えしています。
離れて過ごす時間は寂しいものでしょう。しかし、看護師は赤ちゃんの小さな頑張りや日々の変化をお母さんに共有することで、いつでも我が子をすぐ傍に感じてほしいと思っているのです。
「今日はこんなことができるようになったんだね」と、看護師と一緒に赤ちゃんの成長に驚き喜び合う時間こそが、お母さんと赤ちゃんの強い絆を育んでいく大切なひとときとなります。

 お母さんのペースに合わせて赤ちゃんと触れ合いましょう

小さく生まれた赤ちゃんを前にして、「小さくて触るのが怖い」と不安になってしまうのは決してあなただけではありません。多くの未熟児を産んだお母さんが通る、ごく自然な感情です。
だからこそ看護師は、「早く抱っこしなきゃ」「何かお世話をしなきゃ」と、無理に焦らせるようなことはしません。
何よりも大切なのは、お母さんの気持ちです。まずは、お母さんの心が「やってみようかな」と思えることから、少しずつ始めていきましょう。
最初は、保育器の窓からそっと手を入れて、赤ちゃんの肌に優しく触れるだけでも十分な育児です。お母さんの手の温もりは、赤ちゃんにしっかりと伝わっていることでしょう。
慣れてきたらおむつ交換や抱っこ、授乳など赤ちゃんの状態を見ながら、一つひとつステップを踏んで進めていきます。
「今日は触ることができた」「オムツを替えられた」という「できた」の積み重ねが、お母さんの大きな自信へと繋がっていきます。
お母さんのペースに合わせて寄り添うため、少しずつ歩んでいきましょう。

まとめ

今回は、産後すぐに赤ちゃんと離れてしまったお母さんへ、看護師が伝えたいことについて解説しました。
出産という大きな奇跡の後、抱っこする間もなく我が子と離ればなれになってしまった寂しさは、計り知れないものがあります。「普通に産んであげられなくてごめんね」と、病室で一人涙を流した夜もあるかもしれません。
しかし、お母さんは自分を責めないでください。NICUは親子を引き離す場所ではなく、これからの長い未来に向けて、一番安全な場所で「家族の絆」をゆっくり育むためのスタートラインです。
「何もしてあげられない」とお母さん自身は思っていても、赤ちゃんはお母さんの優しい声や匂い、その手の温もりをしっかりと覚えています。
お母さんの存在そのものが、今を生きる赤ちゃんの大きな支えとなっているのです。
心が折れそうなとき、不安で押しつぶされそうなときは、いつでも看護師を頼ってください。
お母さんが赤ちゃんと笑顔で退院できる日まで、看護師はいつでも家族の歩みにそっと寄り添い続けています。

執筆者

太田優奈

看護師/臨床12年・NICU

看護師として12年。現在も臨床で勤務している。3児の母として育児と暮らしにも軸足があり、医療の話題を生活の側から書くことができる。専門的な内容を正確に、かつ分かりやすく伝えることを大切にしている。

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