離職率を見る前に職場の余裕がなくなる兆候はどこに出るのか
離職率も稼働率も悪くない。残業時間も増えていない。それなのに現場から「最近きついです」という声が上がる。
管理者をしていると、こういう場面に何度か出会います。数字は問題を示していないのに、現場の実感は違う。
このとき数字のほうを信じると、たいてい後で困ることになります。私が数字の代わりに見ているものを整理しました。
数字に出る前に変化が表れる3つの場所
職場の余裕は、指標として集計される前に日常の様子に表れます。私が普段から見ているのは次の3つです。
職員同士の会話
忙しくても雰囲気がいい職場は、声を掛け合っています。「こっちやっとくよ」「大丈夫?」といった、記録にも残らないようなやり取りです。
危ないと感じるのは、全員が黙々と動いていて、業務連絡以外の会話がなくなっている状態です。
一見すると仕事は回っています。ただこの状態だと、誰かが困っていても誰も気づきません。 問題が表面化するのは、たいてい取り返しがつかなくなってからです。
休憩の取られ方
休憩時間が確保できているかだけでなく、その時間に何をしているかを見ます。
休憩中に仕事の電話を受けていたり、記録を書いていたりする職員が増えていないか。ここが増えると、残業時間の集計には表れないまま余裕がなくなっていきます。
数字の上では改善して見えることさえあります。休憩中に処理してしまえば、残業として計上されないためです。
職員から出てくる話題
余裕があるときは、前向きな提案が出ます。「こうしたら利用者さんがもっと喜ぶんじゃないですか」といった話です。
余裕がなくなると、話題が人に向きます。「誰がやっていない」「またこれができていない」という指摘が増えてくる。
同じ職員が同じ職場について話しているのに、話の向きが変わる。これは分かりやすい変化だと思っています。
現場の声を数字より優先する2つの理由
数字に問題がないのに現場が「きつい」と言っているとき、私は現場の側を信じることにしています。理由は2つあります。
数字は起きたあとにしか動かない
離職率が上がるのは、実際に人が辞めたあとです。稼働率が落ちるのは、受け入れが難しくなったあとです。
つまり指標は結果であって、兆候ではありません。兆候の段階で拾えるのは、現場の言葉のほうです。
現場が「最近ちょっときついです」と言っているときは、だいたい何かが起きています。数字に出ていないのは、まだ出ていないだけだと考えるようにしています。
現場と管理者では見えている職場が違う
職員一人ひとりから見えている職場と、管理者から見えている職場はかなり違います。
現場にいると、自分のシフトと自分のチームが中心になります。管理者は人員配置、利用者さんの状況、売上、職員同士の関係、行政関係まで同時に見ることになる。
視野が広いぶん、管理者のほうが正しいと考えたくなります。ただ、視野が広いということは一つひとつの解像度が下がっているということでもあります。
現場の「きつい」は、その解像度で拾える情報です。軽く扱うと、後で数字になって返ってきます。
判断を誤りやすい2つの場面
現場の状態を見誤ったことも当然あります。管理者として失敗した対応を2つ挙げておきます。
自分が間に入りすぎる
職員同士で不満が出たとき、それぞれから話を聞いて、こちらで調整して結論を出す。以前はこの方法を取っていました。
早く収まるように見えます。ただ、これを続けると何かあるたびに管理者へ話が来るようになりました。本人同士で少し話せば済むことまで、こちらを経由するようになる。
結果として自分の仕事が増え、職員同士のやり取りは減りました。職場の余裕を作るつもりで、逆にコミュニケーションの量を削っていたことになります。
今はまず「それ本人には伝えた?」と聞くようにしています。関係がかなり悪化している場合は間に入りますが、すべてをこちらで解決するのが管理者の仕事ではないと考えるようになりました。
できる職員に任せすぎる
仕事ができる職員は、お願いすればやってくれます。だから頼りたくなる。
これを続けると、できる人ほど負担が増えていきます。そしてある日、突然「もう無理です」となる。
管理する側から見て「この人は大丈夫」と思っている職員こそ、注意が必要だと考えています。不満を言わずに仕事をしてくれる人に甘えないこと。これは今でも意識していることです。
まとめ
離職率や稼働率は、職場の状態を示す指標としては遅すぎます。数字が動いたときには、すでに何かが起きたあとです。
私が数字の前に見ているのは次の3つです。
・職員同士に業務連絡以外の会話があるか ・休憩中に仕事をしている職員が増えていないか ・話題が提案から人への不満に変わっていないか
そして、現場が「きつい」と言っているのに数字が正常なときは、数字がまだ追いついていないだけだと考えるようにしています。
管理者は視野が広いぶん、一つひとつの解像度は下がります。その差を埋めてくれるのが現場の声です。