最期が近づいたとき看護師にできることは?患者と家族を支える10年の経験
最期のお別れの瞬間は、患者さんと家族にとって一生心に残る時間です。ご家族から「何をしてあげたらいいですか」と聞かれたとき、うまく答えられずに黙ってしまった経験はありませんか。私も新人の頃、何度も言葉に詰まりました。終末期の看護に必要なのは、苦痛を軽減することだけではありません。その人が大切にしてきたことを理解し、望む最期を迎えられるよう支えること。そして限られた時間に不安を抱える家族と、「今できること」を一緒に考えること。この2つが看護師に求められます。この記事では、急性期病棟から慢性期、外来まで経験し、10年間で多くの看取りに立ち会ってきた経験をもとに、患者さんの変化への気づき方と、患者さん・家族への関わり方を紹介します。
最期が近づいた患者さんの変化を捉える
患者さんの最期が近づいている兆候に気づくためには、まずその患者さんの「普段の状態」を知っておくことが大切です。普段の様子を把握していなければ、いつもと違う変化が起きていても、その異変に気づくことが難しくなります。
そのため、日頃から食事や水分摂取量、睡眠、排泄、会話や表情、活動量などを観察し、患者さんの情報を集めておくことが重要です。バイタルサインだけではなく、日常生活の中でどのような変化が起きているのかを知ることも、状態を把握する上で欠かせません。
「いつもより食事が進まない」「眠っている時間が増えた」「呼びかけへの反応が弱い」など、普段とは異なる変化がみられた時には、その症状だけを見るのではなく、これまでの経過や他の症状と合わせてアセスメントします。
そして、看護師が捉えた変化を適切に医師へ報告し、必要な対応につなげることも重要です。「最期が近づいている」と決めつけるのではなく、「いつもと違う」という小さな変化を見逃さないこと。
その変化を積み重ねながら患者さんの状態を総合的に捉えることが、終末期の患者さんと家族を支える第一歩になります。
具体的なサインについて3つ紹介します。
食事や水分の変化から今後を考える
食事や水分摂取の変化は、患者さんの状態を把握する上で大切なサインの一つです。昨日まで食べられていたものが食べられなくなったり、一口で満足したりと、その変化はさまざまです。
このようなときに大切なのは、「何を食べさせるか」だけを考えるのではなく、患者さんが今どのような状態なのかを把握することです。
好きなものを食べたいという希望があっても、食事量の低下や嚥下状態などによって、これまでと同じように食べることが難しくなる場合もあります。
そのため、口にするものについては、事前に医師へ確認した上で対応します。
以前、意識はあるものの徐々に食事量が減ってきた患者さんがいました。ご家族から「何か好きなものを食べさせてあげたい」という希望があり、すりつぶしたフルーツを持ってきてもらったことがあります。
食事として十分な量を摂ることは難しくても、好きだったものを少し口にできる場合もあります。そのため、食事量の変化だけを見るのではなく、「何なら食べられるのか」「どのくらいなら口にできるのか」といった様子にも目を向けることが大切です。
また、家族から普段好きだった食べ物や、これまでの食事の様子を聞くことで、患者さんの変化を捉える手がかりになることもあります。
最期が近づくにつれて、食事や水分の摂取量が減っていく患者さんもいます。しかし、その変化を単に「食べられなくなった」と捉えるだけではなく、何なら口にできるのか、どのくらい食べられるのかを含めて観察することが大切です。
普段の様子と比較しながら小さな変化を見逃さず、その後の状態を考えていくことが、今後のケアにつながっていきます。
意識や反応の変化を見逃さない
意識状態も、患者さんの変化を捉える上で確認したいポイントです。眠っている時間が長くなり、呼びかけに対する反応が徐々に鈍くなることがあります。
以前、普段は声をかけると返事があり、会話もできていた患者さんがいました。しかし、訪室すると呼びかけても返事がない、刺激しても目を開けない、呼吸の仕方もいつもとは異なり、胸や肩を大きく動かしながら苦しそうに呼吸していました。
普段から関わっている患者さんだったからこそ、「いつもと違う」状態に気づくことができます。
このような変化に気づくためには、普段の意識状態や会話の様子を把握しておくことが大切です。意識や反応だけを見るのではなく、呼吸の仕方も含め、その患者さんにどのような変化が起きているのかを観察します。
意識レベルが低下してきたときには、呼びかけへの反応だけでなく、呼吸状態やバイタルサイン、尿量なども合わせて確認します。これまでの経過と照らし合わせながら、「いつから、どのような変化が起きているのか」を整理してアセスメントすることが必要です。
呼吸や身体の変化を捉える
呼吸や循環の変化は、患者さんの状態を把握する上で重要な観察ポイントです。呼吸のリズムや深さだけでなく、血圧や脈拍、SpO2、尿量、浮腫なども合わせて確認します。
私が状態の変化を捉える際に分かりやすいと感じていたのは、四肢末端のチアノーゼや冷えです。血流が十分に行き届かなくなることで、手足が冷たくなってくる患者さんもいました。
そのような時には、患者さんの状態や皮膚の様子を確認しながら、保温によって少しでも苦痛を和らげられるようケアを行います。一方、発熱がある場合にはクーリングなどを取り入れ、その時の苦痛に合わせて対応を考えます。
また、解熱剤などの薬剤を使用する際には、血圧の変化にも注意していました。使用する薬剤によって副作用は異なるため、必要に応じて医師に確認しながら対応することも欠かせません。
実際に血圧が低下している患者さんでは、これまでの内服薬を確認すると降圧剤を使用していたこともあります。新たな薬剤だけを見るのではなく、普段から使用している薬や治療内容まで確認するよう意識してきました。
終末期は状態が変化しやすいため、一つの症状だけで判断することはできません。呼吸や循環、身体の変化、使用している薬剤などを合わせて確認し、その時の患者さんに必要なケアを考えていくことが大切だと感じています。
変化に気づいた看護師ができること
患者さんの状態に変化がみられた時、看護師に求められるのは、その変化を観察するだけではありません。痛みや呼吸苦といった身体的な苦痛だけでなく、眠れない、落ち着かない、不安そうな表情をしているなど、言葉に表せない苦痛にも目を向ける必要があります。
また、最期が近づくにつれて、患者さん自身が「これからどう過ごしたいのか」「どこまで治療を受けたいのか」を考え直す時期でもあります。一度決めた意思が変わることもあるため、その時の思いを確認しながら、今後のケアにつなげていくことが大切です。
看護師は患者さんと関わる時間が長いからこそ、日々の会話や表情、家族との関わりの中から、その人の思いに気づける場面があります。
患者さんの状態や意思を医師を含めた医療者間で共有し、必要に応じて家族への連絡や今後の過ごし方を考えていくことも、看護師に求められる大切な役割です。
患者さんの変化に気づいたあと、その情報をどのように共有し、本人の意思や家族との時間に繋げていくのか。ここからは、看護師ができることを次の3つに分けて紹介します。
患者さんの状態を医療者間で共有する
患者さんの状態に変化がみられた時は、看護師だけで判断せず、医師をはじめとした医療者間で情報を共有します。
日々のバイタルサインだけでなく、食事や水分の摂取量、活動状況、意識や表情の変化など、普段の状態と比較して何が変わっているのかを伝えることが大切です。
今後の方向性を考える際には、医師や看護師だけでなく、リハビリスタッフや栄養士、相談員など、それぞれの立場から患者さんの状態を捉えます。
これまで行っていたリハビリを継続できる状態なのか、栄養面でどのような対応が必要なのか、現在の療養場所で最期まで過ごせるのかなど、今後起こり得ることを踏まえて情報を共有することが重要です。
患者さんの状態によっては、どこで最期を迎えるのか、家族への病状説明をいつ行うのか、今後どのようなケアが必要になるのかを検討する場面もあります。
看護師は患者さんと関わる時間が長いからこそ、日々の生活の中で見えてくる小さな変化を把握しやすい立場です。
その情報を医療者間で共有し、患者さんが残された時間をどのように過ごしていくのかをチームで考え、本人や家族の希望に沿ったケアにつなげていくことが大切です。
本人の意思を今後のケアにつなげる
終末期のケアを考える上で、本人がどのように過ごしたいのか、どこまでの治療を望むのかを確認することはとても重要です。本人が意思表示できるうちに思いを聞き、家族や医療者間で共有しておくことで、その後のケアや治療の方向性を考えやすくなります。
本人の意思を確認することで、望まない治療による苦痛を避けられる場合もあります。一度決めた内容であっても、状態や気持ちの変化によって考えが変わることもあるため、その時の思いを確認しながら支援していくことが大切です。
一方で、病状の進行によって本人の意思を確認することが難しくなる場合もあります。
そのようなときは、家族の思いだけで判断するのではなく、これまで患者さんがどのようなことを大切にしてきたのか、どのような生き方や考え方をしてきたのかを振り返りながら、本人にとってよりよい選択を家族や医療者と一緒に考えていきます。
また、延命治療や今後のケアについては、医療用語も多く、医師から説明を受けてもすぐに理解することが難しい場合があります。
説明後には「分からないことはありませんか」「もう一度確認したいことはありますか」などと声をかけ、理解できているかを確認することも看護師にできる支援の一つです。
本人の意思を大切にしながら、家族が苦しみや後悔を抱え込まないよう支えていくことも、終末期に関わる看護師には大切だと感じています。
家族に連絡するタイミングを考える
患者さんの状態が変化した時、看護師として悩むことの一つが「家族にいつ連絡するのか」ではないでしょうか。最期が近いと感じても、今すぐ状態が大きく変化するとは限らないため、連絡のタイミングを判断することは簡単ではありません。
私自身、新人の頃に家族の状況を十分に把握できておらず、患者さんの状態が大きく変化してから連絡したことで、家族が間に合わなかった経験があります。
その時、ご家族が「そばにいてあげたかった」と悲しそうに話している姿を見て、私自身ももっと早く連絡できていたらよかったのではないかと後悔しました。
この経験から、患者さんの状態が徐々に変化してきた時には、家族がどこに住んでいるのか、連絡を受けてからどのくらいで来院できるのかを確認するようになりました。
血圧が徐々に下がってきている、SpO2が低下している、呼吸状態に変化がみられるなど、すぐに状態が大きく変化するとは言い切れない段階でも、早めに家族へ現在の状況を伝えることがあります。
「今すぐではないかもしれませんが、状態が変化してきています」と伝えることで、家族が来院について考える時間を持つことができます。
一方で、すぐに面会を希望しない家族もいるでしょう。そのような場合には、急な状態変化によって間に合わない可能性があることも事前に伝えておくことが大切です。その上で、家族自身がどうしたいのかを考え、選択できるよう支えることも看護師の大切な役割です。
新人の頃の経験があったからこそ今は、患者さんの状態だけではなく、家族の状況にも目を向けています。少し余裕を持って連絡することで、家族が後悔の少ない選択をできるよう意識しています。
家族にできることを一緒に考える
看取り期になると、家族から「何かしてあげられることはありませんか」と聞かれる場面があります。患者さんの状態が変化していく中で、何もできないことに不安や焦りを感じる家族もいるでしょう。
しかし、患者さんのためにできることは、特別なケアだけではありません。そばにいることや手を握ること、普段通りに話しかけることも、患者さんにとって大切な時間になることがあります。
看護師は、家族が患者さんのために何をしたいのか、その思いを確認しながら、今の状態でできることを一緒に考えていくことが大切です。
また、「ありがとう」と伝える、思い出を話すなど、これまでなかなか言葉にできなかった気持ちを届けられるよう支えることもできます。
一方で、家族が患者さんと過ごす時間に、看護師が必要以上に関わる必要はありません。家族だけでゆっくり過ごしたい時間もあるため、その場の雰囲気や関係性を見ながら、そっと見守ることも看護師にできる関わりの一つです。
ここからは、家族と一緒にできることを考えるうえで、看護師として意識したい3つの方法について紹介します。
家族に今できることを伝える
家族は、患者さんのために何かしてあげたいと思っていても、具体的に何をすればよいのか分からないことがあります。
そんなときは、患者さんの状態や家族の希望を聞きながら、今できることを一緒に考えていきます。例えば、一緒に身体を拭いたり、口腔ケアを行ったりすることも一つの方法です。
以前、食事や水分を摂ることが難しくなった患者さんのご家族から、「喉が渇いているのではないか」「好きだったジュースを少しでも味わわせてあげたい」と相談を受けたことがありました。
患者さんの状態を確認した上で、好きだったジュースをガーゼに染み込ませ、しっかりと絞ってから唇や口の中を湿らせ、ご家族にも患者さんの口元へそっとガーゼを当ててもらいました。
自分の手で患者さんの口元にそっとガーゼを当てられたことが嬉しかったのか、ご家族が嬉しそうにされていた姿が今でも印象に残っています。
看護師が「これをしてください」と決めるのではなく、家族が患者さんのために何をしてあげたいのかを聞き、その時の状態でできることを一緒に考えることが大切です。
患者さんのために何か特別なことをしなくても、家族自身がケアに関わることで、「自分にもできることがあった」と感じられる場合もあります。だからこそ、家族の思いを聞きながら、その人たちに合った関わり方を一緒に考えていきます。
伝えたい言葉を届けられるようにする
最期が近づくと、家族は「もっと話をしておけばよかった」「何か伝えたいことがある」と感じることがあります。しかし、患者さんの意識が低下すると、「もう話しかけても分からないのでは」と迷ってしまう家族もいるでしょう。
そんな時は、普段通りに声をかけてもらうよう伝えます。
意識が低下し、反応が乏しくなっていても、声が届いている可能性はあります。そのため、伝えたい気持ちまで諦める必要はありません。
「ありがとう」「大好きだよ」といった言葉だけでなく、これまで一緒に過ごしてきた思い出を話したり、写真を見ながら昔の出来事を語りかけたりすることもできます。
看護師として大切にしたいのは、「何を言えばいいのか」と悩む家族に正解を示すことではありません。今伝えたいと思っている気持ちを、その人らしい言葉で届けられるよう、そっと背中を押すことも看護師にできる関わりの一つです。
家族だけで過ごす時間を大切にする
看取り期には、患者さんと家族だけで過ごす時間を作ることも大切です。限られた時間だからこそ、看護師が必要以上にその場に留まらないことを私は意識しています。
私自身、ケアや観察が終わった後は、必要なことだけを確認してできるだけ早く退室するよう心がけています。看護師は患者さんを支える存在ではあっても、家族の代わりにはなれません。
実際に、患者さんのそばでずっと話しかけている家族もいれば、何も話さず、ただ静かにそばに座っている家族もいました。
そのような時には、「声をかけてあげてくださいね」と伝えることもあります。すると、それまで黙っていた家族が少しずつ患者さんに話しかけ始める場面もありました。
ケアを終えた後は、「少しご家族だけで過ごされますか」と声をかけ、その場を離れることもあります。看護師が退室した後、家族だけで静かに過ごしたり、患者さんに思いを伝えたりする時間が生まれることもありました。
必要な時にはすぐ対応できるようにしながらも、看護師があえてその場を離れることも大切な支援の一つです。
最期の時間は、患者さんと家族にとって一度しかない時間です。だからこそ、看護師として何かをするだけではなく、家族だけの時間を守ることも終末期看護では大切だと感じています。
10年の経験を通して感じた、最期の時間に大切なこと
10年間、多くの患者さんの最期に関わる中で感じたのは、最期の時間に必要なのは特別な技術や言葉だけではないということです。
患者さんの小さな変化に気づき、これからどのようなことが起こる可能性があるのかを考える。そして、本人の意思を確認しながら医療者間で情報を共有し、必要なタイミングで家族にも連絡していく。
その一つひとつが、患者さんと家族にとって大切な時間につながっていきます。
また、家族は「何かしてあげなければ」と考え、何もできない自分を責めてしまうこともあります。しかし、一緒に身体を拭く、手を握る、声をかけるなど、特別なことをしなくても、そばにいることそのものに意味があると私は感じています。
最期の時間は、もう一度作ることができません。だからこそ看護師として、患者さんの状態だけを見るのではなく、その人がどのような人生を送り、誰とどのような時間を過ごしたいのかを考えることが大切です。
患者さんの変化に気づき、必要な対応につなげる。そして、患者さんと家族が少しでも後悔の少ない時間を過ごせるよう支えていく。
10年の看護経験を通して、私が最期の時間に大切だと感じているのは、こうした一つひとつの関わりです。
新人の頃は「自分に何ができるのだろう」と悩むこともありましたが、患者さんと家族に寄り添い、その時にできることを考え続ける姿勢そのものが、終末期看護では大切なのだと思います。
赤堀友香里
看護師/臨床10年・精神科病院勤務
看護師として10年。病棟6年・外来4年を経て、現在は精神科病院に勤務している。看護学校で留年した経験があり、遠回りをした側の視点を持つ。専門的な内容をかみ砕いて伝えることを大切にしている。
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